847 / 1000

第847話

帰り道、一週間分の野菜やら魚肉やら、そして俺用にケーキを買ってもらい、両手に荷物をぶら下げながら帰還した。 俺は小さなケーキの箱を片手で抱え、エレベーターの壁にもたれ掛かり、「重いよー、これ買い控えしたら良かった」とか「ピーマンもうひと袋買えば良かった」とか、主婦みたいな会話が続く。 「あー、ただいまー」 「はい、お帰りー、ただいまー」 キッチンの机に戦利品を並べて、一緒に冷蔵庫に片付けていく。 「コーヒー入れようか。」 「やったー!ケーキ食べよーっと。」 「ほんっとに甘いもん好きなんだな。」 「へへっ。あげないよーだ。」 「別にほしくないけど。」 いそいそと箱を抱えてリビングに移動すると、希がそれを目で追いながら、ペーパーと粉をセットするのが見えた。 間もなくいい香りがしてきて、最後の一滴が落ちるのを待ちかねてカップに注いでいる。 「ほら、お待たせ。」 「ありがとう!希がしてくれた方が美味いからな。」 「セットするだけじゃん。誰がやっても同じだろ? 上手いこと言って俺にやらせるつもりだろ。」 「ホントだよ!…ってバレたか。あははっ。」 俺はひと口含んで飲み込むと 「本当に美味しいんだってば。」 と呟くと 「そういうことにしといてやるよ。」 頭をぽんぽんされて笑われた。 ふふっ、と肩を(すく)めて見つめ合って笑う。 何気ないひと時が愛おしくてならない。 込み上げる涙が溢れそうになり、慌ててケーキをひと匙口に放り込んだ。 ほろ苦いコーヒークリームとビターチョコが口の中で溶けていく。 あ、そうだ。後で新しいシーツやスウェットなんかを希と検索しなくっちゃ。

ともだちにシェアしよう!