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第854話

side:希 それからは本当に慌ただしかった。 通常業務に加えて、一週間の休暇をもぎ取る為の段取りと契約獲得と。 それは斗真も同じで、毎日ヘトヘトになって家に辿り着く。日を跨ぐことも度々あった。 まともに顔を合わせてご飯を食べるのも週に一度か二度で。 休みの日には泥のように寝入ってしまう。 当然のことながら、身体を重ねるなんて時間的にも体力的にもなくって。 そんな日が続いて、やっと何とか目処がついて少し落ち着きを取り戻した頃…久し振りに二人顔を合わせた休日に、微かな違和感を感じた。 「斗真、おはよう。」 「希、おはよう。」 何かが違う。『何が?』と問われても明確な答えができないが、斗真の顔をじっと見つめた。 「どうした?何か付いてる?」 「いや…何でもない。」 当たり障りのない会話をして片付けを済ませると、いつものように後ろから抱き込んで座った。 違う。やっぱり違う。 「斗真…」 「何?」 「しんどかったら言ってくれ。」 「何を?」 「え…いや、色々。」 「。何もない。」 嘘だ。斗真が『』と言う時は、大丈夫ではない。 それに、抱きしめる身体がひと回り小さくなった気がする。 どうしたんだろう。オーバーワークくらいでおかしくなるような斗真じゃない。 「斗真、ご飯ちゃんと食べてたのか?えらく痩せた気がする…」 「忙し過ぎて落ち着いて食べれなかったから。 もう、落ち着いたから。」 まただ。『大丈夫』な訳ないだろう。 まさか、“あの感情”を引き摺っているのではないだろうか。 考えたら、あの事件から僅か数か月しか経っていない。 この間もマイク達が日本に来ると聞いたことでフラッシュバックを起こしていたじゃないか。 ひょっとして、彼らの訪問が斗真を苦しめているのではないのか?

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