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第855話

俺は斗真の頭を撫でた。 そしてキスしようとしたその時、斗真がふっ、とそれを避けた。 「俺、もう少し寝てくる。 俺の分のお昼は気にしなくていいから。 起きてこなくても放っておいて。」 そう言い残し、スタスタと寝室へ行ってしまった。 おかしい。 俺のキスを避けるなんて。 眠くて仕方がないんだろう、なんて考えは浮かばなかった。 どんなに体調が悪くても、眠くても、今まで俺達は当たり前のようにキスしてきた。 あの時だって… 俺は慌てて寝室へ飛び込んだ。 ベッドの上には、布団に包まった斗真が丸くなっている。 そっとベッドに乗り上げて、声を掛けた。 「斗真…俺も寝ていい?」 返事はないが、俺は布団をめくって忍び込んだ。 「斗真…」 抱きしめる感触が違う。 こんなに痩せてしまって…無茶な仕事をさせた俺のせいだ。 そして、それに気付かなかった俺のせいだ。 「こんなに痩せちゃって…斗真、ごめん。」 うっ…くっ…くうっ…うっ… 腕の中の斗真が声を殺して泣き始めた。 「…違う、希の…せいじゃない、から。」 「斗真…」 「…弱い俺、が、俺が悪いんだ…いつまでも、いつまでも引き摺ってる、俺が…」 え…“引き摺ってる”!? …やはり、あの時のトラウマが… 「お前のせいじゃない。お前は悪くない。」 俺は斗真を抱きかかえ、顔中に触れるだけのキスを繰り返す。 あれからたった二カ月しか経ってないんだ。 多分…『マイク達=あの出来事』という図式が刷り込まれているのかもしれない。 俺は、彼らとの再会をただ単に懐かしくてうれしくて精一杯もてなしてやろうと、そればかりを考えていた。 でも、斗真は…斗真だってあれこれ考えて提案してくれて、準備も快くやってくれていた。 ひょっとしたら、斗真自身もその図式に気付かなかったのかもしれない。

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