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第856話

俺の配慮が足りなかった。 こんなに近くにいてどうして分かってやれなかったんだろう。 自分が情けない。仕事にかこつけて、斗真のことをちゃんと見てやってなかった。 あまりに斗真の態度が普通で、俺すらあの事件のことを忘れてしまっていた。 ごめん、斗真。悪いのは俺だ。 でも、今更マイク達に『日本に来るな』なんて言えない。 どうしたら… ふと気付くと、えぐえぐと嗚咽していたその声が聞こえなくなっていた。 「斗真?」 そっとその顔を見ると、泣きはらした目元も鼻も赤くなっていた。 俺の胸元を握りしめ小さな寝息を立てるその姿を見ていると、涙が滲んできた。 愛おしくて愛おしくて、抱きしめる腕に力を込めた。 ごめん、斗真。 俺はお前を苦しめてばかりだ。俺の側にいるせいで辛い目に合わせてばかりだ。 それなのに、お前は俺のことを『愛してる』『一生一緒に』って言ってくれる。 いいのか?本当に、それでお前は幸せなのか? 俺が側にいていいのか? 苦しい。苦しい。 斗真を思えば思うほどに苦しくなる。 斗真にとって幸せな道は、他にもあったんじゃないだろうか。 相手は俺じゃなくても良かったんじゃないか? 誰かの方が幸せにできたんじゃないのか? マイナスの思いがぐるぐる巡り、頭が痛くなってきた。 腕の中の斗真は静かな寝息を立てている。 この温もりを他の誰かのものにできるのか? そんなこと! できる訳ないじゃないか! 斗真は俺のもので、俺は斗真のもの。 誰かを代わりになんてできやしない。 俺は、斗真を…愛しているんだから…

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