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第864話

平気そうに見えても、心の傷はそう簡単には治らない。 理解していても、本当に分かっていなかったのは俺の方だった。 正直に言うと…情けなくて言いたくはないが…忘れ…そう、忘れていた。 斗真は我慢強い。泣き言も滅多には言わない。 それは仕事でもプライベートでもそうだ。 大親友達の来日の報に浮かれていた俺は、そんな斗真に甘えてつけ込んでいたんだ。 凹む。 どう考えても俺が悪い。『ごめん』しか言えない。 「希、何かぐるぐる考えてるだろ。」 斗真が俺の頭をぐしゃぐしゃ撫でながら言った。 「悩まなくてもいいから。 時間が解決してくれるよ。 俺も強くなるから、希はそのままでいてくれ。 『愛してる』って言ってくれたら、それで大丈夫だから。」 「斗真…」 また“大丈夫”って言ってる… 痩せた身体を背中から抱きしめる。 骨張った肩回りも、いつも以上に浮いた鎖骨も、撫でただけで位置が分かる肋骨も、斗真がを俺に突き付けてくる。 胸がきゅうっと潰れて鼻がツンとして、泣きそうになりながら 「愛してる…愛してるよ、斗真…」 また、斗真に甘えてしまった。 そんな言葉ひとつで、俺のことを許してくれるのか? 「希、キスして。」 甘えるような声音で首を捻る斗真の唇にそっと重ねると、口を開けろ、と舌先で突かれた。 望み通りに開いた隙間から、斗真の舌が侵入してきた。 俺の舌に絡み付く斗真の舌は情熱的で、俺は斗真の顎を掴み、斗真は俺の頬を押さえてお互いの口内を貪り合っていた。 蒸気で逆上せそうになり頭もぼんやりしてくるが、この口付けを止めたくはない。

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