867 / 1000

第867話

「ほら、これも。」 「ありがとう。希も。ほら、あーん。」 差し出されたパンが口の中に押し込まれた。 ムグムグ言いながら咀嚼して、コーヒーと一緒に飲み込む。 “あーん”された…してもらった…萌える… 「もう一回。」 斗真は目を見張った後、くすくす笑いながら 「はい、あーん。」 もぐもぐもぐ… 顔が崩れる。幸せ… 「希…イケメン崩壊してるぞ…残念…」 「いいんだよ! 斗真が“あーん”してくれて萌えてるんだからっ! …もう一回。」 斗真は照れながらも、また口に入れてくれた。 「はい、おしまい。ご馳走様! 俺、暫く寝る!起きたら買い物に行こう。 お休み!」 そう言い残すと、空になった自分の食器を片付けて、さっさと寝室へ行ってしまった。 ポツンと取り残された俺は我に帰ると、急いで胃の中に収め片付けを済ませると、斗真の元へ馳せ参じたのだった。 「斗真…」 呼び掛けても返事はない。 小さな寝息が聞こえるだけ。 その横にそっと滑り込むと、いつもの位置で抱きしめる。 あったかい。安心する。 その温もりを堪能しながら、俺もいつの間にか意識を手放していた。 その日から斗真は、心のエネルギーが切れると黙って俺の側にやってきて、ぴったりとくっ付くようになった。時々、子供のように抱っこしてくれ、と言うこともあった。 最初、斗真が何を求めているのか分からなくて、あれやこれやと問い詰めていたのだが、黙って首を振るだけだったので敢えて詮索せず、斗真のしたいようにさせてやっていた。 何も言わずに俺の肩にもたれ目を閉じている斗真は、それで気が済むのか、暫くそうした後、またいつもの斗真に戻っていく。 きっと俺の温もりと思いをチャージしてるんだろう。 そうやって心の傷を癒していくんだな。

ともだちにシェアしよう!