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第867話
「ほら、これも。」
「ありがとう。希も。ほら、あーん。」
差し出されたパンが口の中に押し込まれた。
ムグムグ言いながら咀嚼して、コーヒーと一緒に飲み込む。
“あーん”された…してもらった…萌える…
「もう一回。」
斗真は目を見張った後、くすくす笑いながら
「はい、あーん。」
もぐもぐもぐ…
顔が崩れる。幸せ…
「希…イケメン崩壊してるぞ…残念…」
「いいんだよ!
斗真が“あーん”してくれて萌えてるんだからっ!
…もう一回。」
斗真は照れながらも、また口に入れてくれた。
「はい、おしまい。ご馳走様!
俺、暫く寝る!起きたら買い物に行こう。
お休み!」
そう言い残すと、空になった自分の食器を片付けて、さっさと寝室へ行ってしまった。
ポツンと取り残された俺は我に帰ると、急いで胃の中に収め片付けを済ませると、斗真の元へ馳せ参じたのだった。
「斗真…」
呼び掛けても返事はない。
小さな寝息が聞こえるだけ。
その横にそっと滑り込むと、いつもの位置で抱きしめる。
あったかい。安心する。
その温もりを堪能しながら、俺もいつの間にか意識を手放していた。
その日から斗真は、心のエネルギーが切れると黙って俺の側にやってきて、ぴったりとくっ付くようになった。時々、子供のように抱っこしてくれ、と言うこともあった。
最初、斗真が何を求めているのか分からなくて、あれやこれやと問い詰めていたのだが、黙って首を振るだけだったので敢えて詮索せず、斗真のしたいようにさせてやっていた。
何も言わずに俺の肩にもたれ目を閉じている斗真は、それで気が済むのか、暫くそうした後、またいつもの斗真に戻っていく。
きっと俺の温もりと思いをチャージしてるんだろう。
そうやって心の傷を癒していくんだな。
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