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第872話

全てを見透かしたような瞳に慈愛を感じて、縋り付いて泣きそうになるのをグッと堪えて 「俺も斗真も、来てくれて本当にうれしいんだ。 ゆっくりできるかは保証しないが、とにかく楽しんでくれ。」 と、肩を叩き返した。 「希ーっ!バス来たぞーっ!」 手を振る斗真に片手を上げて応え、マイクを促してバスに向かった。 荷物を預けて身軽になったマイクは、ユータと一番前の席を陣取り、俺と斗真がその横に並んだ。 ガイドさんはベテランっぽい雰囲気の年配の女性で、にこやかに乗客を迎えていた。 乗り込んでくるのは八割方外国人だった。 ほぼ座席が埋め尽くされると、ガイドさんが日本語で 「本日は数あるツアーの中から、当はとバスをご利用いただきまして、誠にありがとうございます。 この車内は海外のお客様が多いので、日本語と英語、韓国語が入り混じってのご案内になりますのでご了承下さいませ。」 と言った後、英語、韓国語と、続けて説明を始めた。 斗真が 「あのガイドさん、中々やるなぁ。ネイティブじゃなくて、綺麗なクイーンズだ。」 と感心したように呟いた。 ガイドさんの真前に陣取ったマイクとユータは、彼女が英語を話せると知った途端に、あくまでも邪魔にならないように、色々と質問攻めにしていた。それに対して流石プロ、にこやかに対応している。 昔っから好奇心旺盛で、どんなことでも楽しむ奴らだから、この時間もきっといい時間のはず。 「希。」 「ん?どうした?」 「このツアーにして良かった。マイク達楽しそう。」 「うん、そうだな。ありがとう。 改めて観光することがなかったから、俺達だって楽しもうぜ。」 そっと斗真の指に俺の指を絡めた。 斗真は吃驚したような顔をしたが、くすくす笑いながら絡め返してきた。

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