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第883話

にこやかに笑うダンナさんは、胸元から名刺を取り出すと斗真に渡した。 「学生時代、エイジがお世話になったそうですね。ありがとうございました。 こんな所でお会いできるなんて…ご挨拶が遅れて申し訳ありません。」 名刺には、よく知る大企業の名前が記されていた。実は…取引を密かに狙っている会社だった。 「あ、すみません。プライベートなので持ち合わせてなくて…」 「いえいえ。何かありましたら協力は惜しみませんよ。 何たってエイジのお世話になった方なんですから。 きっとまた、何処かでお会いすると思います。」 「先輩、俺、先輩のお陰で立ち直って留学して、彼と出会ったんです。今、凄く幸せなんです。 本当にありがとうございました。 皆さんもどうぞ良い旅を。 先輩も、お幸せに。」 「そうか…良かったよ。 ミスター、エイジのことよろしくお願いします、って俺が言う台詞じゃないけれど。」 ダンナさんは俺たちに向かって親指をぐっと突き出した。 いい人そうだ。エイジ君の蕩けそうな顔を見れば分かる。知り合いだったのか…斗真が気付かなかったところを見ると、雰囲気も全然違うのかもしれないな。 挨拶もそこそこに、我先にと出口に殺到する人並みに押されて、俺達も下船した。 またサトコさんに先導されてバスに乗り込む。 エイジ君達は、後ろの方にいたから気付かなかったんだ。 「…びっくりした…」 「高校?大学の後輩?」 「高校。頭がいい奴でそれを妬まれて、大人しいのをいいことによくいじめられてたんだ。 偶々、委員会が同じで、そんな場面に出くわしては助けてやってたんだ。 留学したらしい、って話は聞いてたんだけど… そうか、あっちで結婚したんだな。薬指にリングが光っていたから。 幸せそうで、良かった…」

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