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第884話

心底ホッとしたような顔で斗真は笑った。 俺の知らない学生生活の間にそんなことがあったなんて。 いじめから後輩を守るなんて、正義感の強い斗真らしい。そのお陰で彼はしっかりと地に足をつけて、今は『幸せだ』と言い切っていた。 「斗真…お前って、やっぱり凄い奴だな。」 「何言ってんの?俺はフツーの男だよ。」 繋いだ手に力を込めた。 ちらりと俺の方を見て、ふにゃりと笑う斗真。 お前の笑顔は俺が守るからな。俺も頷いて微笑んだ。 「……皆様の旅が素敵なものになりますようにお祈りして、私共のご案内を終了させていただきます。 短い時間ではございましたが、ご乗車誠にありがとうございました。」 サトコさんの若々しい声が車内を巡った。 うわぁっ!という歓声と拍手、指笛が鳴り響き、下車時には、みんなサトコさんに口々にお礼を言い握手をし、中にはハグをする人もいた。勿論俺達も。 が降りてくるのをそわそわしながら待ちたい素振りの斗真の気持ちを汲んで、俺達は少し離れた所で見守っていた。 やがて合流した彼らは暫く何か話していたが、満面の笑顔でハグし合うと、こちらにも大きく手を振り去って行った。 笑顔を振り撒きながら走り寄って来た斗真は 「待たせてごめん!でも、ありがとう!」 そして俺の顔を見てへにゃりと笑った。 「俺も彼と結婚して幸せだ、って伝えてきた!」 「斗真…」 マイクとユータは頷き合っている。 胸に込み上げてくるものがあり、何だか泣きそうになった。 ユータが茶化しながら、そんな俺の肩を叩いた。 「ノゾミ、君のトーマはサイコーだね!」 「当たり前だろ!?」 「あー、ご馳走様。」 オレンジ色の残り()に照らされながら、大きなトランクを引っ張る二人を引き連れ、斗真とくっ付いて歩き出した。

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