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第888話
「せっかくの食事の時間を打ち壊すようなことしてごめん。
でも、俺の中でどうしても…」
「オーケー、トーマ。何でも聞いてくれ。
君が前に進む手伝いができるなら、俺達は喜んで協力するよ。」
「俺もマイクと同じだ。ノゾミ、いいな?」
俺も無言で頷いた。
再び女将が声を掛けて入ってきて、デザートまでの残り全ての料理を置いていった。
お品書きによると、デザートは桜のジェラートだったらしいのだが、置いていけば溶けてしまうと急遽変更してくれたのか、プリンが四つ、氷を張った大きな器の中に置かれていた。
俺は女将にこっそりと
「メニュー変更させてすみません。料金に追加して下さいね。」
と言うと
「お気遣いなく。人払いしていますから、ごゆっくり。」
と笑顔で言い残し、襖を閉めた。
流石に聡いひとだ。感心しながら運ばれた料理に手をつけるよう促し、ほぼ無言で粗方食べ終わった頃、マイクが口を開いた。
「結論から言おう。
父親は議員辞職。失脚して今は行方知れずになっている。
彼にまだ良心が残っていたのか、私財は全て養護施設へ寄付されていたよ。
ジョンは終身刑。パトリシアは…死刑確定だ。
数年間、隠蔽されていた悪質な事件が全て明るみに出て、裁判が行われた結果だ。
今までの地道な捜査が身を結んだ形となったんだ。命を落とした被害者はもう帰ってはこないけど……勿論、君が関係した事件が発端になったんだよ。
だからトーマ、君達のお陰で、糸が絡まっていた様々な事件が解決したようなものなんだ。改めてお礼を言うよ、ありがとう。」
俺は未だ震える斗真の手を握りしめた。
斗真は俺の顔を見ると、大丈夫、とでも言いたげに、力強く頷いた。
「…そうか…被害者の無念が晴れた…と言ってもいいのか?
それでも、そんなことくらいでは心の傷は消えやしない…」
きゅ、と斗真が、俺の手を握る指に力を込めた。
それに応えるように、俺も強く握り返した。
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