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第895話

「ごめん…でも俺だってお前とイチャつきたいんだ!」 「それなら二人っきりの時にすればいいだろ? 何でわざわざ他人(ひと)がいる時に仕掛けてくるんだ? その神経が分からない。」 そうか…イチャイチャが嫌な訳ではないのか。 良かった… 「斗真…恥ずかしいの?」 「当たり前だろ!?何でそんなこと分かんないの? デリカシーなさ過ぎ。 俺、何度も言ってきたよな!? ボディタッチを当たり前にしてきたお前達みたいに、普通にできないんだってば! …いい加減、分かれよ…」 「…ごめん…」 「海外生活が長いお前とは、生活習慣が違う。 キスやハグが当たり前のお前と、そういうことは人前では慎むべきという俺とは、全く考えが相入れない。 …何度も何度も何度も何度も伝えてきたよな。」 「…うん…」 「なのにお前ときたら…あーっ、もういいっ! 明日早いから寝るっ!お休みっ!」 再びくるりと背を向けた斗真は、二度と俺の方を振り向くことはなかった。 何だか…ただ辛い。 俺は暫く斗真の背中を見つめていたが、諦めて布団に潜り込んだ。 全身で俺を拒否する斗真に、くっ付きたいけどくっ付けない。 それでも斗真の背中の方を向いて横たわった。 拳ひとつ分空いた隙間。 それが、今の斗真の離れた気持ち。 息を潜めて目を瞑っていると、微かに誰かが叫ぶ声が途切れ途切れに聞こえた。 おいおい、まさか… 哀愁を帯びたような、甘く切ない声は…あぁ…アイツら…人ん()で盛るなよ… 絶対斗真にも聞こえているはず。 俊兄と亜美さんの時みたいな…フラッシュバックした、他人の行為を覗き見するような罪悪感に苛まれる。 その時、斗真がもぞりと動いて俺の方を向いた。

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