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第924話
今夜は中出ししなかったから、掻き出される必要もないし、何かすれば俺が怒り狂うのは目に見えているし、希はそれ以上仕掛けてはこなかった。
…それを物足りなく思うのは、俺が希にかなり感化されている証拠だ。
いやいや、明日も早いんだ。少しでも寝ておこう。
さっさと上がり拭き上げると、冷蔵庫からペットボトルを取り出して水を飲んだ。
少し遅れて出てきた希が、俺の手からペットボトルを奪い、残りを飲み干した。
「斗真、寝るぞ。」
そして、えらくあっさりと布団に潜り込んだ。
肩透かしを食らったように感じながらも、俺も潜り込み
「希、お休み。」
「うん、お休み。」
優しく唇を合わせると、いつものようにそっと抱きしめ合った。
静かな寝息が聞こえる。希は寝入ってしまったんだろう。
薄目を開けると、目の前に整った希の顔が。
俺のことが大好きで、俺のことになると我を忘れる、尊大な男。
なぁ、希。
三十三間堂で、俺がお願いしたこと…それは…
『希より1時間だけ後にこの世を去ることができますように。』
俺がお前より先に逝っちゃったら、お前はきっと取り乱しておかしくなっちゃうだろ?
だから…お前を見送って、それぞれの家族に連絡して葬儀の手配をしてもらって、遺言状と貴重品と連絡してほしい人のリストをテーブルに並べて身支度を整えて…1時間あればできると思うから。
そして、お前の手を繋いで…俺もその後を追い掛けるから、待ってて。
こんなこと考えるのって変だったかな。
でも、あそこでは不思議とそう祈ったんだ。
…いつまでこうやっていられるのか分からないけれど…愛してるよ、希。
すり…と胸に擦り付いて、また目を閉じた。
規則正しい胸の鼓動が、優しい子守唄に変わる。
満たされた心と身体を希に預けて、俺はゆっくりと夢の中へ旅立って行った。
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