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第926話

まったく…油断も隙もありゃしない。 盛りのついた駄犬め。 ため息をつきながらドアを開けると、満面笑顔元気はつらつの二人が、キャリーケースと一緒に立っていた。 「トーマおはよー!」 「おはよう!」 「二人ともおはよう!さ、入って!」 「ノゾミ、おはよう!ん、何だよ、その顔。」 「ホント…イケメンが何処かに行ってる…」 「…斗真にハグしたら、手を抓られた…」 「ハグだけじゃないっ!俺の尻を揉んだだろ!」 「あははっ!ノゾミ、サイテー!」 「朝から何やってんだよー!」 いやいや、事の発端は君達だからね。 二人にも詰られて、益々機嫌が悪くなる希に 「だーかーらー、家に帰るまで我慢しろって。」 と日本語でそっとささやくと、途端に花が咲いたような笑顔を見せた。 馬に人参、希に『俺』。まぁ、仕方ないか。 朝から賑やかに会話が弾む。 時計を確認した希が 「あと15分程で小川さんが来てくれるよ。 今日も彼のエスコートで楽しめる。 ここからフロントまで少し距離があるし、チェックアウトもしなくちゃならないから、そろそろ出ようか。」 「うん。 あの人いい人だね。あの年代であんなに腰が低い人も珍しいかも。」 「それが“オモテナシ”なんだよ。 今日はユータの“思い人”に会えるからね!」 「そんなんだよ!すっごく楽しみ!」 忘れ物がないか、希がもう一度部屋をチェックしてくれた。 時間といい、細かな配慮といい、本当にこの男はマメで凄いんだよなぁ。 持って生まれた性格なのか、出会った頃からそうだった気がする。 まさに『気配りのひと』。 だから希と組んでする仕事はスムーズにいくし、楽なんだ。 プライベートは『俺を好き過ぎる』という難点があるんだけど。

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