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第928話
「正直に言うと…いくら仮想世界の人でも、俺以外に心を寄せるっていうのが嫌なんだ。
100%俺だけを見て俺だけを思ってくれないと…
多分、希が思うよりもずっと、俺は嫉妬深いんだと思う。
だから…
いくら『仏像』とはいえ、他の誰かのことを恋してる…って言われてるマイクが気の毒になっちゃって…
それに、そんな二人に俺達がダブっちゃって…
希もユータみたいに俺以外の誰か他の人のことを」
「そうか…安心して、斗真。
俺は斗真以外に心が動かないし欲情しない。
仏像だろうがアニメキャラだろうが、そんな気持ちにはならないから、ね?」
(分かってるだろ?)と唇が動いた。そして、希は俺の耳元で『愛してるよ』とささやいた。
後部座席では、ユータがマイクに、自分の思い人の素晴らしさを懇々と説明しているらしかった。
俺達は顔を見合わせて苦笑いし、そっと手を握っていた。
そうこうしているうちに、目的地に着いた。
はしゃぐユータを優しい眼差しで見つめるマイク。
ユータはひとり、先に行きかけたが、くるんと振り向くと花が綻ぶような笑顔をマイクに向けると
「マイク、行くよ!」
と右手を差し出した。
すかさずその手を握り、歩き出したマイク。
何故かホッとした。
他人事ながら、大切なパートナーが蔑ろにされているような気がしていたから。
その後ろ姿をぼんやり眺めていると、肩を叩かれた。
「斗真、俺達も行くぞ!」
急かされて慌てて二人のあとを追い掛ける。
俺の隣にぴったりとくっ付いて歩く希の横顔を盗み見ると、朝日に照らされたその顔が神々しく見えた。
惚れた欲目というのか、希ばか、というのか…
自虐的に笑う俺を希が不思議そうに見ている。
「斗真?」
ううん、と首を振って唇だけ動かした。
(大好きだよ)
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