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第939話
やっぱり…マイクのカンは鋭かった…何かあるんだ。一体何を悩んでるんだろう。
「トーマは、流石ノゾミのパートナーだけあるね。
人の気持ちを汲み取るのが上手い。ウチの職場にスカウトしたいくらいだよ。」
「そんなことないよ。俺で良かったら話してくれないか?
俺はあの時ユータ達に物凄く助けられた。
もしユータが何かに悩んでいるなら、手助けしたい。」
ユータは俺をじっと見つめていたが、ふにゃりと微笑むと
「大したことではないのだけれど。」
と前置きをして、焼酎をひと口飲んだ。
「実は、部署替えを打診されてるんだ。」
「え?部署替え?じゃあマイクと離れちゃうってこと!?」
「うん。
今は同じだから、お互いの勤務時間も関わってる仕事の内容も全て手に取るように分かるから、生活のリズムも何もかも合わせることができるんだ。
でも、俺が異動しちゃったら、全てがすれ違う可能性の方が強い。
そうなったら、俺の方が耐えられないと思う。」
「どこの部署に?」
「警察犬の訓練所。
俺、昔から動物が大好きで、本当は最初からそこに配属されたかったんだ。
マイクと離れて目指してた仕事を選ぶか、マイクと一緒にいることを選ぶか。
今の俺にとっては、その選択ができない。
マイクから離れたら、俺は生きていけない。」
「仕事かマイクか、っていう選択なんだね。」
「そう。マイクに伝えたら、きっと背中を押される。俺のやりたい仕事を1番理解してくれているから。
やりたい仕事に就いても、プライベートが上手くいかないとその仕事もダメになる。
どっちもダメになりそうでそれが怖いんだ。
それだけ俺はマイクに依存して、マイクなしでは仕事すらも満足にできないんだ、って改めて自覚した。」
ユータはため息をついて微笑んだ。
その笑顔はとても辛そうに見えた。
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