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第940話
「そうだったのか…その訓練所は今の場所からはどのくらい離れてるの?」
「郊外だから、今住んでる所より片道1時間以上かかるな…」
「時間的にも距離的にも負担が掛かるんだね。」
「うん。だから家のことなんて休みの日くらいにしかできなくなるし、下手したらそこに近い所に俺だけ引越ししなきゃいけなくなる。
そうなったら完全別居だよね。」
「…多分マイクは…『行け!』って言うと思う。
どっちにしても、相談した方がいい。言いにくいとは思うけれど。
断れば、ユータはずっと後悔するんじゃないのか?
後でそれをマイクが知ったら『何故言ってくれなかったんだ』って、マイクがマイク自身を責めると思うんだ。
今まで何でも話し合って解決してきたんだろ?
“迷ってる”のは、ユータの中で、もう結論が出ているからじゃないのかな?」
「…結論?」
「うん。ユータがどうしたいのかは、もう自分で分かってるんだよ、きっと。」
ユータはじっと俺を見つめていた。
そして、ふうっ…と大きく息を吐いた。
「…そうだね、夢は捨てられないんだ。
マイクはきっとどんなフォローでもしてくれる。
それも分かってる。
でも、今まで当たり前みたいにずっと側にいて、当たり前に過ごしてきた時間がなくなるんだ。
これが原因で、マイクが俺から離れて行ったらど
うしよう、って…つい考えて…」
「マイクは何処にいてもユータを一途に愛してるよ。」
「でも、人の気持ちは永遠じゃないだろ?
俺が異動することでマイクが…」
そこまで言うと、ユータは静かに泣き始めた。
ぽろぽろと頬を涙が伝う。
俺はそっとティッシュを渡し、背中を摩っていた。
「ユータっ!!!」
突然、マイクが隣の部屋から飛び込んできた。
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