あっという間に幕間(まくあい)になった。 半ば放心状態になっていた俺の顔を覗き込んできた希が 「とーま？大丈夫？」 と頭を撫でてくれる。 その温もりが心地良くて、目を瞑り頷く。 「すっげぇ感動してるんだ。」 「うん、分かる。俺もだよ。」 目を開けると希の瞳に俺が映っていた。 不意に抱きしめられたい衝動に駆られたが、最大級の理性を振り絞って我慢する。 「ノゾミー！トーマ！コレ何？」 素っ頓狂なユータの声に振り向くと、何か大きな保冷バックを指差していた。 希と首を傾げながら隣に行こうとすると、俺達の座席の後ろにも同じものがあった。 「ん？何だコレ…手紙がついてるよ…専務からだ！ 『前略 ご友人と楽しんでおられるかな？ 長丁場なので腹の足しに召し上がれ。 　　　　　　　　　　　　　　　　じい』 え？」 ジッパーを開けると、中にお弁当やらお椀なんかが入っていた。 そっと取り出して蓋を開けたら… 「希！これ、SNSにアップされてる幕の内弁当だ！ …でもこれ、完全予約制じゃないのか!? マイク、ユータ！これ『幕の内弁当』だよ！ 出してみて！」 マイクがユータに手渡して、蓋を開けた瞬間 「うわぁ…何て美しいんだ…美味しそう…これ、どうしたんだ？」 「チケットを手配してくれた御老体のご好意だよ。 幕間の時間も決まってるから早速いただこうぜ！」 口々に賛美の声を上げ、何枚も写メを撮って満足したマイク達がやっと箸を取った。 俺は希に耳打ちした。 「…おい、希…こんなにしていただいて、もう恐縮しかないんだが…」 「それは俺達でしかできないことでお返ししていこう。あの方が一番喜ぶ方法でな。 あ！取り敢えずお礼のメール送っとくか。」 「…そうだな、それしかないな。」 急いで連名で簡単なお礼のメールを送った。 そして時間を気にしつつも美味しく完食した。 隣も…お腹を摩ってるから大丈夫そうだな。