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第952話

トイレを済ませて元の席に戻ると、希が手持ち無沙汰にぺらぺらとパンフレットを眺めていた。 ひとりで寂しかったのか? 「希、お待たせ。」 振り返り俺を見た途端に、ぱぁっと笑顔になるゲンキンな奴め。 「ユータ達はどうだ?」 「ご機嫌に決まってるじゃん!大興奮さ。 さっきから検索しまくって凄いぞ。」 隣を覗き込むと、二人でくっ付いてまた画面に夢中だ。 微笑ましく思いながら希を見つめると、希が真顔で話し始めた。 「俺も直で見るの初めてで興奮してる…本番で実力を発揮できるのは、結局積み上げた努力と鍛錬とブレない心なんだなって…そう思ったら、自慢たらしい俺のプレゼンなんて大したことなかったな、って…少し自己嫌悪にも陥ってる。」 「…俺と同じ…俺もそう思った。 『努力は人を裏切らない』なんてスポコンの常套句だと、そんな風に思ってたけど。 “真剣さ”って人の心を打つんだな、やっぱり。 この間も反省したのに、俺、自分が如何に傲慢だったか、“ピノキオ”になってたか…恥ずかしいよ。」 二人頷いて幕の降りた舞台に視線を移した。 そう言えばドキュメンタリーで、ある役者を追った番組があったな。 ストイックで情の熱い彼の姿に感銘したが、演者は皆、同じような思いで舞台に立ってるんだろう。 華やかな世界の裏側で、どれだけの汗と涙を流してるのか。 伝統を守りながら新境地を開いていく、その双肩に掛かる重圧は半端ないだろう。 マイクとユータの、そして素敵な舞台のお陰で、鼻高々の嫌な奴に染まらなくて済んだ。 つい最近反省したばかりなのに。 努力はしてる、つもりでいる。 けれど、営業成績が良いのも、勿論上客に恵まれていることもあるけど、周りのバックアップがあってのことで、俺の実力だけではない。 忘れてはならない、自己の努力と思いと、周囲への感謝。

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