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第962話

このままでいいとは思っていない。 聡いアイツらのことだ、希と俺の不協和音くらいすぐに見抜いてしまうだろう。 せっかく遠路はるばるやって来た大親友に余計な心配をかけたくはない。 今日の夕方には帰国してしまうのだ。最後の最後に嫌な思いをさせたくない。 ストレートに愛情表現をする親友達に当てられたのか、甘えたい、構ってもらいたい、という希の気持ちも分かる。 遠慮せずに二人っきりになれる時間も限られているから、その分濃密になるのも分かる。 かと言って、そう簡単に許すのもシャクだ。 …さて、どうやって決着をつけようか。 振り上げた拳をすんなり下ろすのは中々難しい。 さぁ斗真…お前、どうする? 戸惑いの感情を押さえきれずにいると 「……斗真…ごめんなさい…」 何度目かの謝罪の言葉が降ってくる。 啜り泣く声も聞こえてくる。 はぁっ……負けた。 俺は布団をまくり、シーツの上をぽんぽんと叩いた。 「こっちに来いよ。風邪引くだろ。」 じわじわと遠慮がちに、希が入ってきた。 抱きしめると、すっかり冷え切った身体は氷を抱いたように感じて思わず仰け反った。 いくら三月とはいえ、朝晩の気温はまだ低い。 俺が無視して放置したせいで、身体の芯まで冷えてしまったのだろう。 足を絡めそれでもあちこち摩ってやり、ようやく戻った体温に安堵した。 頭を撫でると…まだひんやりと冷たかった。 胸元に押し込んで、布団を頭の上から被せる。 「…風邪引いたらどうするんだ。」 「…ゴメンナサイ。」 希は小さな声で呟くと、1ミリの隙間もないくらいに俺にくっ付いてきた。 「…もう怒ってないから。」 「…ゴメンナサイ。」 「もう、いいから。」 “ゴメンナサイ”しか言わない希に焦れて、そっとキスを送る。

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