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第963話

ちゅっ、ちゅっ、と小鳥が啄むような軽いキスを繰り返す。 そのうち、希がクスクスと笑い出した。 そして、互いの唇の間にそっと手を差し込んで遮り、『何故?』と問い掛ける俺の目をじっと見つめるとささやいた。 「斗真、ごめん。」 そうか…やっぱり表現がストレートなんだ。 俺は希の気持ちが愛おしくて切なくて、口元を遮る手を解くと、噛み付くように口付けた。 「もう、謝るな。」 「心が狭い俺が悪かったんだ。」 「分かってやれなくてごめん。」 「愛してるから。」 キスの合間にそう呟くと、しがみ付く希の腕に力が込められた。 口内を舐め尽くす激しいキスに息が上がってくる。 ようやく唇を離す頃には、二人とも肩で息をしていた。じわりと汗もかいている。 希の前髪を撫で付けながら優しく問い掛ける。 「夜まで待てる?」 潤んだ瞳の伴侶が、微笑みながら健気に頷いた。 今すぐにでも交わりたい気持ちをやっとの思いで振り切り、もう一度髪を撫でちゃんと目を見つめて言った。 「希、いい子。」 その言葉に、希は唇に軽くキスを残すと、するりと俺の腕の中から抜け出し、部屋を出て行った。 はあっ…欲に流されかけた。 セーブしなければあのまま…そして今頃は… ドアの向こうから賑やかな声が聞こえてきた。 笑い声も聞こえる。二人も起きてきたようだ。 俺も簡単にベッドメイクをすると、三人の輪に加わった。 「おはよう!マイク、ユータ!」 「おはよう、トーマ!」 「おはよう!君が一番寝坊助だったのか!」 「心外だな。きっと一番の早起きは俺だな。」 「違うよ、俺だよ!」 大騒ぎしながら順番に洗面所を使い、身支度を整えて…その間にマイクとユータは荷造りを終えていた。

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