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第975話
side:ユータ
どうしても心に突っ掛かっていたことをとうとう口に出してしまった。
『何故このタイミングで』『何故二人きりの時に聞かないのか』と自分でも思ったが、聞きたい衝動が抑えられなかった。
今まで以上に大好きになった日本を離れてしまうというセンチメンタルな気分が後押ししたのだろうか。
でも、言葉に出してしまったことを俺は後悔はしていなかった。
結果――『心外だ』と、俺に掴みかかりそうになるくらいにマイクを怒らせてしまった。
いつも豪胆で笑顔を絶やさないマイクが見せた激昂。
完全否定して怒りを露わにするマイクに、正直ホッとした。
“俺の勘は外れていた”
まだ怒りの治らない風のマイクをちらちらと横目で見ながら、そっと窓の外を見遣った。
トーマ…空港で会った時、君の瞳は怯えていた。
すぐに『あの事件を思い出したんだ』と悟った。
俺達を笑顔で迎えながらも、ふと見せる表情に君の苦悩を感じていたんだ。
きっと…俺達の来日を聞いた時から、トーマは思い出したくもないあの感情と闘っていたんだろう。
それは、無意識に放たれるノゾミの言葉の端々に伺えた。
勿論、ノゾミはそんなことはこれっぽっちも言葉には出さなかったが。
正直、会うことは迷った。
まだ傷は癒えていないと分かっていたから。
いくら愛するノゾミが側にいるとはいえ、時間が解決するとはいえ、そんな簡単なことではない。
ましてや、あの事件に携わった俺達と、あの日以来顔を合わせるんだ。
トーマの不安や恐怖を考えると、会うのは取りやめた方がいいんじゃないかと、マイクと何度も何度も話し合った。
けれども…『どうせ仕事で日本に来なければならないんだ。それならば一目でも顔を見たい。』
なんて俺達の勝手な願望でゴリ押しした感は否めない。
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