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第976話
来日するのは他のメンバーでも良かったんだけれど、“土地勘のある知り合いがいて”“日本に遊びに行っても疑われない”俺達に白羽の矢が当たってしまったのだ。
――秘密裏に『ある物』を受け取って持ち帰りボスに手渡す――
たったそれだけの仕事だけれど…マスコミに嗅ぎつけられると国際問題に発展する可能性がある任務。
『まるでスパイのようだ』と、マイクと一旦は断ったんだ。そんなの俺達には荷が重すぎる。
こんな仕事のことで、彼らを巻き込むのは正直心苦しかった。
けれどそれ以上に二人に会いたかったんだ。
そんな俺達の思惑を知らぬまま、ノゾミとトーマは快く歓待してくれた。
俺があの仏像の前で動けなくなったのは、洗いざらい俺の思いを聞いてもらっていたから。
昔から憧れて会いたかったあの人に。
彼はマイナスの感情をただひたすらに受け取ってくれた。
俺の汚い心の奥の奥まで浄化してくれたような気がした。
トーマはそんな俺のことを心から心配して話を聞いてくれた。
自分だって気付かないくらいに、まだ心が傷付いているというのに。
申し訳なさで一杯になって、本当のことを伝えようかとも思った。
『仕事の口実のために君達と会ってる』
なんて、そんなこと、言えるか!?
けれど、それはトーマを更に傷付けることになってしまう、と思い留まった。優しいトーマにこれ以上辛い思いをさせたくなかった。
幸いなことに、あの聡いノゾミも、トーマも、俺達の裏の顔には気付かなかった。
今回の来日に関しては、心に鍵を掛けて墓まで持って行こう。
それにしても…あの件は俺の思い過ごしで良かった…俺は、まだ怒りのオーラを発するマイクの右手にそっと手を重ねた。
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