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第977話

マイクが俺の方を向いた。 いつもの顔に戻っていた。 …ホッとして大きく息を吐くと、彼は左手を重ねてきた。 じわりと温もりが移ってくる。 「…ユータ、怒鳴ってゴメン。俺」 「ストップ!俺こそ嫌な思いをさせてゴメン。 この話は終わったんだ。 もう二度と口にしないから、俺のこと許してくれる?」 「ユータ…」 「残念ながら何でも疑ってかかるのは、もう職業病みたいなもんだよね。 ねぇ、マイク。俺、異動の話、帰国したらすぐにOKの返事を出すよ。 もしかしたら…離れて暮らすか、一緒に暮らしたとしても二人の時間が減っちゃうかもしれない。 それは覚悟しなくちゃならないけど…申し訳ないけれど協力してもらえるかな? だからといって…俺達の絆は変わらないよね? …もう誰かを騙すようなことをするのは嫌だ。」 「ユータ…」 マイクの顔が近付いてきた。 そっと唇が触れた。 それはすぐに離れていったけど、いつもの優しいキスだった。 「マイク…」 マイクの瞳が潤んでいる。 何故?何で泣いてるんだ? 「マイク?」 不安になり、繋がった手をぎゅっと握りしめる。 マイクも黙って俺の手を握り返してくれた。 「マイク、あの、俺」 その時、機内のアナウンスが俺の言葉を遮った。 離陸だ。 シートベルトを締め直すと、マイクを見た。 彼は前を向いて目を閉じていた。 何となく話し掛けるのも憚られて、俺は窓の方を向いた。 夕闇に溶け込んだ空港のシルエットが浮かび上がり、ゆっくりと動き出した機体はやがてそれらに別れを告げた。 サヨナラ、ノゾミ、トーマ サヨナラ、ニッポン ありがとう、と呟くと、胸に込み上げるものがあって泣きそうになった。 それをぐっと堪えて、遠ざかるボヤけた照明を見つめていた。

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