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第980話

「…マイク…もうシートベルト外しても大丈夫だよ…」 右手に温もりと、遠慮がちな小さな声がした。 俺はゆっくりと目を開いた。 心配そうに見つめるユータの瞳と打つかった。 「……まだ怒ってる?」 俺は首を横に振ると、その手を(うやうや)しく持ち上げてキスをした。 「ユータ、愛してるよ。」 安心したように頷くユータが、弾けるような笑顔を見せた。 そうだ。 この笑顔を一生、何があっても守っていく。 どんなことが起こっても。 俺のしたことは、俺だけの心に秘めて絶対に漏らさない。 誰かに疑われても…絶対否定し続ける。 それが、俺の愛だから。 …ユータは言った。 『もう誰かを騙すようなことをするのは嫌だ』 俺だって!俺だってそんなことはもうごめんだ。 事実…俺は今、愛するユータや親友達を騙している。 言いたくても言えない。 いや、今の関係が崩れるなら、言おうとも思わなくなった。 ごめんな、ユータ…俺は言えないんだよ… あの事件の後、真剣に転職も考えた。 …でもできなかった。 経済的なことや、俺達の関係を理解してくれる職場を探す苦労なんかを考えると、どうしても踏ん切りが付かなかった。 何よりも、ユータに告げるための、転職する理由が見つからなかった。 それに、警察内部にいればアイツらの情報は入るし、出方も見張ることができる。 何をしてくるか分からない連中だから。 まぁ、そんなことをする社会的な力も財力もなくなってしまったけれど、逆に地下に潜ってしまうと厄介だ。 「マイク…手、繋いでてもいい?」 伴侶の可愛いお願いに笑顔で頷くと力を込めて握りしめた。 愛おしい、愛するユータ。ずっと側にいさせてくれ。 俺はこんな汚れた人間だけれど、俺を捨てないでくれ、頼む。 祈るような気持ちで、ユータの手の温もりを感じていた。

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