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第993話
俺は斗真をむぎゅっと抱きしめて言った。
「上にも伝えてあるから心配しなくていい。」
「え、まさか… 『転勤するなら二人一緒で。それ以外なら退職する』って…それ、マジだったのか?」
「そう、マジ。ちゃんとOKもらってるから。
一筆書いてもらってるし。」
「いつの間に?…でも、希…それって、お前の昇進を蹴ってるのと同じじゃないのか?」
「出世に興味はない。だからいいんだ。
会社が俺達を必要としてくれている間は、そんな脅しが効く。
だから有無を言わせないように、確実に実績を残そうと努力してるんだ。
ありがたいことに、今のところ良い顧客がついてくれて、部下に回せるほど余裕があるんだけど。
それもいつまで続くか分からないけどね。」
「…俺はお前の出世の妨げになってるんじゃないのか?」
「何バカなこと言ってんの?
俺にはそんな欲はないよ。大体、この会社に入った理由だって『いつか必ず日本支社に行って、日本のどこかにいる斗真を探し出して手に入れる』っていうものだったんだし。
それに、本当に会社にとってメリットがある社員なら取り立てるし、ある程度は言い分を聞いてくれるはずだ。
だから、そういう存在でありたい、と思ってオンオフをしっかり分けて、仕事は仕事で集中してやってるんだ。
結果的に、人生最大級の目標を最高の状態で成し得たんだから、俺はこれ以上望むことはない。
斗真が側にいない人生なんて考えられない。
そんな人生なんかいらない。」
「希…」
「こんな俺…引くか?」
斗真はふるふると首を横に振ると、俺の目を見つめて言った。
「…そんなに俺のこと愛してくれてるの?」
黙って頷くと、斗真の顔が近付いてきた。
優しいキスは、やがて熱を帯び激しいものに変わっていった………
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