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第998話
それからの希は、さっきの不貞腐れが嘘のように、いつもの『キリッとした』希に戻った。
スーツ姿も惚れ惚れする。ネクタイをキュッと締める指先に見惚れてしまう。
カッコいい…流石俺の希だ…
なぁ、そんなにヤりたいのか?
俺ってそれだけの相手なのか?
思わずそうツッコミそうになりながらも、そうじゃないって、十分過ぎるほど分かってる。
俺のことを愛し過ぎて四六時中構いたいんだもんな。
拗らせた十代の恋を引き摺って引き伸ばして丸めて、無限大の愛で俺ごと包み込んでさ。
本当は仕事なんて行きたくなくって、出来ることなら俺を監禁して誰にも見せずに愛でたいんだろ?
妄執と束縛の塊だもんな、希。
おめでとう!改めて“変態さん”に認定だ!
だけどな。
そんな偏執な愛情も、お前の一部だから受け止めてやる。
そう思う俺も、大概ヤバいよな。
…まぁ、いいか。愛してるんだもん。
俺だって希に負けないくらいの…ぷぷっ。
俺って、何て器の大きな奴なんだろう。
自画自賛、万歳!
自己完結して俺も片付けと支度を済ませると、気合を入れた。
二人の関係を胸を張って言えるように、誰にも文句は言わせないように、今日からまた頑張るとするか。
「とぉーまぁ!行くぞっ!」
「今行く!」
おっと、弁当も忘れずに。
いつもより少し軽い鞄を抱え玄関に向かうと、ドアを半開きにして希が待っている。
少し肌寒い朝の空気が、春の朧を纏って入ってきた。
靴を履き終えると、希を引き寄せた。
バタン
閉じたドアに押し付けるようにして…キスして…ささやく。
「行ってきます。」
「行ってらっしゃい…行ってきます。」
「行ってらっしゃい。」
くすりと笑った希がドアを開けた。
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