「あんなに慌てなくても余裕じゃないか！」 「何言ってんの。満員電車は嫌だからな。 …誰かが斗真に触れるの、不可抗力でも絶対嫌だ。」 「…はいはい。(それは無理な話だ…独占欲丸出しじゃん！)」 敢えて反発せず、口を尖らす希をチラチラと横目で見る。吹き出しそうになるのを必死で堪えた。 希の隣を歩きながらこれまでのことに思いを馳せる。 本当にいろんなことがあったけど、思いを寄せ合い二人で暮らせるこの日々を幸せに思う。 もう桜は散り急ぎ葉桜になっていた。 「桜、終わっちゃったな。」 「うん。来年も京都に行こうよ。」 「いいね！マイク達来れるかな？」 「どうだろう。転勤になったら動物相手だから中々休みも取れなくなるかもな。」 「そうだね…でもまた一緒に旅行したいな。」 犬と戯(じゃ)れ合う二人の姿が浮かんだ。 「なぁ、希…アイツら、上との話し合い上手くいくといいな。」 「多分大丈夫だと思う。マイクも一緒に転勤になるだろうな。」 「何で？」 「アイツも俺と同じ策士だから。」 なーるほど…類は友を呼ぶんだな。 目的のためには手段は選ばないってか… 「ユータも俺と同じように、マイクの手の平で転がされてるってこと？」 「くくっ…いや、そうじゃない。 手綱を握って俺達を自由自在に動かしてるのは、寧ろお前達の方だよ。 飴と鞭の使い方は手慣れたもんだからな、うちのヨメサン達は。 カカア天下の方が、家庭は上手くいくらしいからな！あはははっ！！」 「何だよ、それ…」 怒ったフリをしながら、駆け出した。 「あっ、斗真！待ってっ！」 希、いつまでも追い掛けてこい。 追われるより追う方が燃えるだろ？ そうか…転がしてるのは俺だな。 俺の名を呼びながら追ってくる最高の伴侶の声を聞きながら、優越感と幸福感に満たされて駅の階段を駆け上がった。 (完)