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第14話
どのくらいそうしていたのか
ふと気が付くと、来客用のソファーに寝かされて、俺の物ではないジャケットが掛けられていた。
ふわりと香ってきたその匂いを身体は覚えていた。
希…希の匂いだ。
ジャケットを抱えたまま痛む頭を押さえながら起き上がると
「気が付いたか。体調はどうだ?」
慌てて後ろを振り向くと、希がそこに立っていた。
みんな出払って二人きりだった。
「…あ…着任早々ご迷惑をお掛けして申し訳ございませんでした。…もう大丈夫です。」
「そんな青白い顔で『大丈夫』な訳ないだろう。
…久し振りなのに随分と他人行儀だな、斗真。」
ビクッと身体が跳ねた。
この声…希。やっぱり希だ。
でも…
口角を片側だけ上げてシニカルに笑っている、この男は誰だ?
希は、こんな笑い方はしなかった。花のようにふんわりと優しく笑う奴だった。
その笑顔を変えたのは…俺か?
黙ったまま固まっている俺に希は
「昨日から具合が悪かったそうだな。無理せずに二、三日休むといい。上司命令だ。
…送って行ってやるから支度しろ。」
「…いえ、自分で帰りますから。
申し訳ありませんがお言葉に甘えます。休暇申請よろしくお願い致します。
それと…ジャケットお借りして申し訳ありませんでした。」
ふらつく身体で立ち上がり、ジャケットを返そうと伸ばした腕を掴まれ抱き止められた。
「???」
「ほら見ろ。ふらふらじゃないか。
黙って従え。帰るぞ。」
希は俺の腕を抱えたまま、デスクから鞄をひったくるように掴むと有無を言わさずエレベーターまで引き摺るようにして引っ張っていった。
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