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第15話
腕を拘束されてタクシーに押し込まれ、希が当たり前のように俺の住所を告げ滑るように車が動き出すと、自分の置かれている状況がやっと把握できた。
俺、何で送られてる?
どうして俺の住所を知ってるんだ?
…確かに希なのに。コイツは希じゃない…?
ぐったりと力の入らない俺を抱きかかえ、希は黙ったまま前を向いていた。
しばらくして目的地へ着き車から降りると
「もう歩く気力もないみたいだな。」
独り言のように呟くと、軽々と俺を横抱きにしてエレベーターに乗り、俺の部屋の階数のボタンを押した。
「ええっ?ちょっと!遠藤さん、降ろして下さいっ!!
一人で歩けますからっ!!」
「…だから。…『遠藤さん』って何?
昔みたいに呼べよ『希』って。」
その声音と見下ろされた視線とが、両方とも冷ややかで、俺は思わずぶるっと身震いして希の腕の中で縮こまった。
怖い、怖い。
俺が知ってる、俺が抱いた希じゃない。
助けて、助けて、希…希、希っ!
決して助けには来ない希の名前を心の中で叫び続けるが、身動きできないほどにがっしりと横抱きにされ、逃れようとする身体は俺の意思とは関係なく、くったりと希にもたれかかり言うことを聞いてくれない。
いつもより遅く感じるエレベーターの速度に焦れて、早く早く着いてくれと願うばかりだった。
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