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第22話

「まだ顔色が良くないな。…ゆっくり休むといい。」 そう言って席を立った希に 「ご心配をお掛けして申し訳ありませんでした。わざわざありがとうございました。 あの…これ、代金です。」 「そんなもん、いいよ。…じゃあ。」 希は来た時と同じように素っ気なく足早に出て行った。 バタンとドアが閉まる音が遠くに聞こえ、俺は追いかける気力もなく座ったまま立ち上がることができなかった。 俺の様子を見に来てくれたんだ。 食べるものまで持ってきてくれて。 嫌われて憎まれていたわけではなかった? 不思議な安堵感に包まれて気が付いたら泣いていた。 ダメだ…精神不安定でおかしくなっている。 冷蔵庫に向かうと希が持ってきてくれたプリンを取り出した。ぺりぺりと封を切るとバニラの甘い香りがした。 スプーンでそっと一口。程なく舌の上で甘く崩れたものを飲み込むと、なぜか泣けてきて仕方がなかった。 泣きながら半分ほど食べてまた冷蔵庫に片付ける。 涙を拭い、壊れかけたこの感情を押し込むように、布団へ潜り込んだ。

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