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第26話

「先日はありがとうございました。」 差し出されたグラスに注ぎ足そうと近付くと、腕をぐいと引っ張られ耳元でささやかれた。 「…斗真…この後抜けるぞ。」 思わず瓶を落としそうになり慌てた。 目を大きく見開き、希を見つめる。 「あの…」 「…命令だ。わかってるだろう?」 「…承知致しました…」 このタイミングで…逆らえない、逃れられない。 猛獣に射竦められた草食獣のように。 そこからひたすら大人しく、体調の悪さを引きずっているように振る舞った。 暫し歓談で盛り上がり、そろそろという時間を見計らった板野が 「お楽しみのところ恐縮ですが、そろそろお開きの時間と相成りました。 ボスもマネージャーもこの後はご予定がおありとのことですので、本日はここで納めさせて頂きます。 では、手拍子一回の一丁締めでお願い致します。 お手を拝借!いきますよー。 いよーぉ パンッ!! ありがとうございましたー!!」 二次会へ雪崩れ込む者、タクシーを呼ぶ者、様々な動きの中、ついっと腕を取られて横道に引っ張られた。 ぼふっと倒れ込んだ先は…希の腕の中で。 そのまま手を取られて足早に連れて行かれる。 いつ手配したのか待たせてあったタクシーに押し込まれて、無言のまま俺のマンションに着いた。 えっ?俺の部屋で? 戸惑いながらロックを解除し、乗り込んだエレベーターでも無言のまま。 激しくなる動悸を押し殺して鍵を開けると、すっと先に希が入り、靴の向きを揃えて上がっていった。 こんなところは相変わらずきちんとしてるんだな… ぼんやりしていると冷たい声が響いた。 「先にシャワーを浴びてこい。」

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