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第37話
希は会社で俺を抱いた素振りも全く見せず、宣言した通り上司と部下のスタンスを崩さず、見事な振る舞いを見せた。
ふわふわとした雰囲気のままみんなと接している。
密かに動揺していたのは俺だけだった。
そして何事もなく金曜日…
「影山君、この書類頼む。」
不意に希から渡された書類の上にクリップで留められたメモには
『今夜20時に』
それを小さく折り畳んでワイシャツのポケットに突っ込むと、ため息をついてその背中を見送った。
同僚の飲みの誘いを断り家路を急ぐ。
嫌悪と期待とが入り混じったこの感情は何だろう。
俺は、希のことが好きだ。はっきり自覚している。でも、希はそうではない。
希にとって俺は…ただの性欲処理だ。
簡単に夕食を済ませて、自分の準備に取り掛かった。
何とも情けない姿に泣きそうになりながら、丁寧に繋がる部分を洗浄し解していく。
後で痛い思いをするのは余計に辛い。
自分の恋心をやっと自覚したというのに、この仕打ちは…いや、これも自分が蒔いた種だ。
折れそうな心を何度も奮い立たせて仕上げると、バスルームを後にした。
着替えて希が来るのを待つ時間が何時間にも思えた。
これからどのくらいこんな思いをしなければならないのか。
希が結婚するまで?結婚したらこの関係は終わる?
希が誰かのものになる…俺はそれを受け入れることはできるのだろうか。
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