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第43話
金曜になると、書類に挟まれたメモや、すれ違いざまに耳元でささやかれる時間の通りに、希が部屋にやってきては俺を抱いた。
体を重ねた後はすぐに去って行く希を俺は黙って見送るしかなかった。
そんな関係が続いていたある日
「おい!ニュース、ニュース!
遠藤チーフが結婚するらしいぞ。」
「えっ?相手は?」
「得意先の有松コーポレーションの長女らしい。
もともとそんな話で日本に戻ってきたらしいぜ。」
「へぇー。じゃあ、この仕事を辞めて向こうの社長になるってことか…
羨ましいな。逆玉の輿?
俺もそんな風になってみたいよ。」
「お前じゃ無理だろ〜。まず見た目が…」
「うるさい!大きなお世話だよっ。」
同僚達が大騒ぎする中、俺の周りだけ時間が止まったように感じていた。
希が?結婚?
あぁ、そうか…そうなんだ。
社長令嬢とは遊びで婚前交渉なんかできないもんな。
やっぱり俺はオモチャだったんだ。
…これで希から離れられる。
俺も…この想いを断ち切らなければ。
「外回り行ってきます。」
社内にいたくなかった。
鞄を掴むとボードを書き換え、一目散にエレベーターへ乗り込んだ。
胸が…痛い。痛い。苦しい。
心臓を抉られるような痛みに襲われて、壁にもたれ掛かった。
「大丈夫ですか?顔色が…」
途中から乗ってきた女性に声を掛けられた。
「…あぁ、ありがとうございます。お気になさらず。」
傍目から見ても相当酷い顔をしてるのか。
一階に着くとその場から逃げるようにして駆け出した。
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