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第44話

あてどもなくひたすら走った。 街行く人達が振り返るが、そんなものも目に入らず走り続けた。 どのくらい走ったのだろう。 息が切れて喘ぎながら立ち止まった。 どこか会社の近くの商店街のようだ。 ふと鮮やかな塊に目がいった。色とりどりに咲き誇る花々。 その一角に季節外れの向日葵がバケツ一杯に生けられていた。 それを見たら視界がボヤけて周りが見えなくなってきた。 人が見たら何と思うだろう。 街の往来でスーツ姿の男が一人で泣いているなんて。 もう、どうでもいいか…とりあえず、ウチに帰ろう… ぐいっと手の甲で目元を拭い、携帯を起動させて地図を呼び出すと、かなり移動していたのがわかった。 どんだけ青春してるんだよ。これが海だったらドラマだよな。 「ばかやろう」 自虐的に笑いながら呟いた。 元来た道をぶらぶらと歩きながら腹が減ったのに気付いた。そう言えば今日は忙しくて昼抜きだったよな。 こんな時は食べ物屋ばかりが目に付いて、麺類の気分でもなくガッツリでもなく…選んだのは小洒落たカフェ風のレストラン。 「いらっしゃいませ。お好きなお席へどうぞ。」 お昼のピークを過ぎたのか、程よく空いた店内は居心地良さそうで、窓際の明るい席を選んで座った。 「まだランチメニューもご用意できますよ。」 営業スマイル全開の店員に、「それで」と一言だけ伝え、冷えたグラスの水を一気に飲んだ。

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