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第46話
こんな気持ちのままで電話に出ることに、全身が拒否して手が動かない。
しばらくして着信音が止まった。
ホッとして携帯を手に取ると、十数件もの着歴。
全部希からだった。
何かトラブルでもあったのだろうか。
でも、今日は『外出・直帰』にしてきたはずだ。
仕事なら仕方がない。観念して恐る恐るタップし、折り返し電話を掛けた。
「このバカっ、今どこにいるんだ?」
ワンコールで出た希の第一声。頭に響く。
何か焦っているような…クレーム?
俺、何かやらかしたのか?
「申し訳ありません。外出先で体調が悪くなり…今は自宅です。
何かトラブルでも?」
はぁっ という大きなため息が聞こえ
「いや…そうじゃない。
で?体調はどうなんだ?」
「…大分良くなりました。元々『直帰』とボードには書いておいたのですが…ご迷惑お掛けして申し訳ありませんでした。」
「わかった。無理せず休め。」
一方的に切られ、ツーッ、ツーッと無機質な音が耳に木霊する。
一体何の用事だったんだろう。
俺の担当は、現状でトラブってるところはないはずだ。書類関係も全て期日までに提出している。
仕事がらみでないなら…プライベートなことか?
あぁ、今日は…『例の』金曜日だから…
….そうか。結婚が決まっても週イチのお楽しみのオモチャがいないと困るからか。
乾いた笑いが湧いてくる。
おかしい。
涙が出るほど笑うと、完全に気持ちが堕ちたのがわかった。
何かが、音を立てて崩れていった。
何も…考えられない。
途端に嘔吐感に襲われた。
慌ててトイレに駆け込み全て吐いた。
もう胃液しか出ないほど、むせこみ えずいて、床に崩れ落ちた。
どのくらいそうしていたのか、ふらりと立ち上がって口をゆすぎ、支えを失った大木のようにパタリとベッドに倒れ込んだ。
そして…そのまま真っ暗な闇に引き摺られていった。
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