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第50話
仕事の後のビールは美味い。腹に染み渡っていく。
「そうだ。おい、矢田。どうしてここなんだ?
こんな高いとこ、払えねーぞ。」
「大丈夫だよ。気にすんな。
実はさ、ひょんなことから うちのマネージャーの弱みを握っちゃってさ。
その口止め料として、何か奢って下さいって言ったわけ。
どうせタダなら、自分で払えないとこにしようと思って…ここさ、マネージャーの奥さんの実家でさ。時々接待で使ってるから、今の中居さんも顔馴染みなんだよ。
付き合ってる彼女もいないからさ、どうせ飲み食いするなら気の合う奴の方がいいと思ってさ。
…悪かったな、付き合わせて。」
「あー、そういう事か。びっくりしたよ、こんな高級な店。
…お前、ホントに誘うような彼女いないのか?
俺でよかったのかよ。」
「いないんだって。だーかーらー、お前を誘ったんだよ。悪かったな。ふんっ。」
「拗ねるなよ。俺はありがたいけどな。
まぁ、飲めよ。はい、どうぞ。」
軽口を叩きながら、酒を酌み交わし料理に舌鼓を打って、久し振りに話に花を咲かせた。
同期で成績も競い合っていた矢田とは気が置けない間柄で、以前はよく飲みに行っていたのだが、課が変わってからは接点もなく、何となく遠ざかっていた。
ここ最近のブルーな気分を払拭するにはいい機会になりそうだと思いながら、美味いメシにパクついていると、突然矢田が真面目な顔をして
「…なぁ、影山…お前、何か悩みでもあるのか?」
「えっ?何で?いや、別に何もないけど。」
「…そうか、そうならいいんだ。」
「急にどうしたんだ?俺、どこか変か?」
「いや、そうじゃなくて。前より痩せて線がますます細くなった気がするから。」
ぐいっとお猪口の酒を飲み干して、遠慮がちに言われた。
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