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第52話

ぽかんと口を開けて矢田を凝視した。 「はぁあ???付き合う?俺とお前が? 何バカな冗談言ってんだよ。止めてくれよ。」 「はははっ。話題性があってそれもいいかと思ったんだけどな。特定のヤツがいたら変な虫も寄ってこないし。 ははっ、冗談だよ。忘れろ。」 矢田は、いつものように笑い飛ばしていたが、今の俺には男と付き合うなんて心臓に悪い。 リスクが大き過ぎる。 付き合っていないにしろ、俺と希は『セフレ』の関係だ。バレたらどんな噂が飛び交うか分からない。 「もう…何を言いだすかと思ったら。早くいい()見つけろよな。」 「だから、お前に言われたくねぇって。そっくりその台詞お返しするよ。 …そろそろお開きとするか。また、飯食いに行こうぜ。今度はワリカンでな。」 「ああ。今日はホントにありがとう。また行こうぜ。」 お互いバカ笑いしながら、帰り支度をする。 別れ際、矢田が真面目な顔をして言った。 「なぁ、影山。」 「ん?何だ?」 「お前…マジで辛いことあったら俺が聞いてやるから…いつでも連絡くれよ。」 「…あぁ。ありがとう。 もしそんなことがあったら…その時は頼む。」 「わかった。じゃあ、気を付けてな。」 「お前も。矢田、ありがとう。またな。」 片手を挙げて矢田が去って行った。 思わず潤んできた目頭を押さえ、足早に歩く。 辛いこと?満載だよ。ボロボロだ。 矢田、お前に言えるか、こんなこと。 『上司が幼馴染で、昔無理矢理抱いた責任を取って、今セフレの関係で毎週金曜日に抱かれてる。 俺のこと性欲処理の相手としか思ってないけど俺はずっと好きで今も思ってる。 ヤツに結婚話が決まりそうで、遊ばれた挙句に俺は捨てられるんだ。』 って。 昼ドラの男版みたいな… 矢田が知ったらなんて言うだろう。 『お前、バカじゃねぇか』 の一言で終わるか。それとも軽蔑されて口も聞いてもらえないか。

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