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第54話
リビングの床にへたり込んで動けなくなった。
言ってしまった。結婚のことも。
否定せず出て行ったのは図星か?
俺との関係がバレたらマズイのは、希のほうだろ?
…退職…思わず口に出してしまった。
もっと早くにそうすればよかったんだ。
心も身体も、希の虜になる前に。
希に躾けられた身体は、他の誰にも埋められない。
きっと…もう恋なんてできない。完全に希に墜ちてしまった。
来週中に引き継ぎを済ませて、有休を全て消化しよう。
しばらく仕事をしなくても生活できるほどの蓄えは十分にある。
腹をくくったら何だか少し楽になった。
あれこれ考えるのを止めて、のろのろと立ち上がった。
頬が冷たい。
なんだ、涙か。最近、涙もろくなって困る。
頬を伝う涙を手の甲で拭き取り、スーツを脱ぎ捨てバスルームへ向かう。
お湯を張りながらシャワーを頭から被って、涙を洗い流した。
途端に甘い疼きが身体を走り、希の指を思い出した。
どうして?忘れるんだろう?
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