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第55話
「くうっ…んっ…くっ…」
ボディソープの滑りを借りて、自然と指が自らの後孔を辱めていく。
希が触ったように…入口をくるくると撫でながら、焦らすように指先を入れ…
指が一本根元まで入ると、後は夢中で二本、三本と増やしていく。
自分の指だけれど希にされているような錯覚を起こしてしまう。
希の細く繊細な指…熱い吐息…滑らかな肌…
こりっと敏感な部分に当たり、あっという間に白濁の液が壁に飛び散った。
後ろだけでイってしまうなんて。
なんていやらしい身体に成り下がったんだろう。
荒げた息が落ち着くのを待って、吐き出した欲を洗い流して浴槽に身体を沈める。
希…
俺はお前が好きだったよ。いや、今でも好きだ。…この想いは断ち切れそうにない。想いだけでなく、身体まで希に支配されてしまった。
あの夏の日、素直に『好きだ』と言っていたら、何かが変わったのだろうか。
あの後、お前に何があったのかわからないが、俺を憎むことは少しでも和らいだのだろうか。
お前ならきっと、いい夫、いい父親になるだろうな。
俺の分も…幸せになってほしい。
やせ我慢でなく、心からそう思う。
俺は、もう…誰も愛せない。
ただ辛いのは、希に憎まれ嫌悪されたままで別れるということ。
それも致し方ないか。
半ば自虐的な感情に蝕まれて、乾いた笑いが止まらない。
もう、楽になりたい。こんな報われない想いはもう嫌だ。
ふと、矢田の顔を思い出したが急いで打ち消した。流されてはダメだ。アイツを巻き込むわけにはいかない。
いろんなものに決別すべく退職届を書こうと、風呂から上がった。
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