55 / 1000

第55話

「くうっ…んっ…くっ…」 ボディソープの滑りを借りて、自然と指が自らの後孔を辱めていく。 希が触ったように…入口をくるくると撫でながら、焦らすように指先を入れ… 指が一本根元まで入ると、後は夢中で二本、三本と増やしていく。 自分の指だけれど希にされているような錯覚を起こしてしまう。 希の細く繊細な指…熱い吐息…滑らかな肌… こりっと敏感な部分に当たり、あっという間に白濁の液が壁に飛び散った。 後ろだけでイってしまうなんて。 なんていやらしい身体に成り下がったんだろう。 荒げた息が落ち着くのを待って、吐き出した欲を洗い流して浴槽に身体を沈める。 希… 俺はお前が好きだったよ。いや、今でも好きだ。…この想いは断ち切れそうにない。想いだけでなく、身体まで希に支配されてしまった。 あの夏の日、素直に『好きだ』と言っていたら、何かが変わったのだろうか。 あの後、お前に何があったのかわからないが、俺を憎むことは少しでも和らいだのだろうか。 お前ならきっと、いい夫、いい父親になるだろうな。 俺の分も…幸せになってほしい。 やせ我慢でなく、心からそう思う。 俺は、もう…誰も愛せない。 ただ辛いのは、希に憎まれ嫌悪されたままで別れるということ。 それも致し方ないか。 半ば自虐的な感情に蝕まれて、乾いた笑いが止まらない。 もう、楽になりたい。こんな報われない想いはもう嫌だ。 ふと、矢田の顔を思い出したが急いで打ち消した。流されてはダメだ。アイツを巻き込むわけにはいかない。 いろんなものに決別すべく退職届を書こうと、風呂から上がった。

ともだちにシェアしよう!