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第57話

「いえ…そういう訳では… 体調が思わしくなくて…会社や顧客にもご迷惑をかける訳にはいかないですし、何も考えずに一旦自分をリセットしたいんです。」 「それほどまでに思い詰めた恋なのかい? 若いっていいねぇ。 でもね、影山。君は必要な人材なんだ。辞めてもらっては困るな。 リセットしたいなら、退職ではなく長期休暇を取らないか? リフレッシュして、君の心の傷が癒えたら戻って来ればいい。 君の席は空けておくよ。」 「…ボス…ありがとうございます。 …でも、俺は、もうここには」 「遠藤か?」 俺の話を遮り、ボスが真っ直ぐ俺を見て問いかけた。 予想だにしない名前を出されて二の句が継げず、何とか言葉を発しなければと思うのに、身体が硬直し唇が動かない。 このままでは『そうです』と認めてしまうことになる。それはマズい。 焦る心とは裏腹に、大きく見開いた目からは涙が溢れてきた。 ダメだ!泣くな、俺。 ふうっ…と大きく息を吐いたボスは、俺にハンカチを差し出し、慈しむような目で見つめていた。

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