57 / 1000
第57話
「いえ…そういう訳では…
体調が思わしくなくて…会社や顧客にもご迷惑をかける訳にはいかないですし、何も考えずに一旦自分をリセットしたいんです。」
「それほどまでに思い詰めた恋なのかい?
若いっていいねぇ。
でもね、影山。君は必要な人材なんだ。辞めてもらっては困るな。
リセットしたいなら、退職ではなく長期休暇を取らないか?
リフレッシュして、君の心の傷が癒えたら戻って来ればいい。
君の席は空けておくよ。」
「…ボス…ありがとうございます。
…でも、俺は、もうここには」
「遠藤か?」
俺の話を遮り、ボスが真っ直ぐ俺を見て問いかけた。
予想だにしない名前を出されて二の句が継げず、何とか言葉を発しなければと思うのに、身体が硬直し唇が動かない。
このままでは『そうです』と認めてしまうことになる。それはマズい。
焦る心とは裏腹に、大きく見開いた目からは涙が溢れてきた。
ダメだ!泣くな、俺。
ふうっ…と大きく息を吐いたボスは、俺にハンカチを差し出し、慈しむような目で見つめていた。
ともだちにシェアしよう!