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第60話
着いた先はいかにも高級感漂うマンション。
希はまだ俺の腕を掴んだままで、無言で引っ張って行く。
その手を振り払うことも許されず、希のなすがままになっていた。
ここでもまたエレベーターに押し込まれた。
掴まれた腕が熱い。そこから熱気が広がって身体全体がじわじわと汗をかいていた。
お互いに無言で、希に至っては何故か怒りのオーラが全身を包んでいる。
最上階の一室に連れ込まれ、ドアを閉めた瞬間力一杯抱きしめられた。
うむっ
突然の噛みつくような獰猛なキスに、頭も身体もついていかない。
腕を突っ張って抵抗するが、頭をがっちりと抑えられ身体を抱き留められて、希の力には敵わない非力な自分を思い知った。
俺は、唇を割ってこようとする希の熱い舌先を歯を食いしばって何とか防御していた。
つっ と唇を離した希は、至近距離でささやいた。
「…さっき俺のことを好きだと言ったのは嘘だったのか?
俺の幸せのために身を引くって…どういうことだ?」
途端に羞恥と怒りが渦巻いて、瞬間、力の緩んだ希を突き飛ばしていた。
壁にぶつかり座り込んで肩を押さえた希を見下ろしながら
「…そうだよ。俺は…きっと初めて出会った時から、ずっとお前のことが好きだったんだ。
だから、言葉よりも先にお前を俺のモノにしてしまった。
謝ろうと思っても告白したくても会ってもらえずに…そのまま海外に行ってしまって…
誰と付き合っても本当に愛せなかった。
…お前のことを思ってたんだ。向日葵が咲く頃になると特に。
お前の泣き顔が胸に刺さって辛かった。」
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