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第62話

じゃあ…と希に背を向けドアに近付いた俺に 「待てよっ!」 鋭い声が響いた。 殴られる? 覚悟して目を瞑って歯を食いしばり衝撃に備えた。 次の瞬間、ふんわりと暖かな温もりに包まれて、驚いて目を開けると、希に抱きしめられていた。 「斗真…お前、ボスの言うことちゃんと聞いてたのか?」 「えっ?今週有休取れって…」 「『しっかり話し合って誤解を解け』そう言われただろ? お前、一方的に思ってることまくし立てただけじゃないか。 …俺の気持ち、何も伝えてない。」 「気持ちも何も…話し合うことはもうないし、これ以上傷付く言葉を聞きたくないんだ。 かなりメンタルやられてるから、追い詰めないでくれ…頼む。 今でさえ、マジで心折れそうなんだ。 お前の『オモチャの時間』はもう終わったんだよ。 すまない…離してくれないか?」 「バカ、二度と離すかっ。 両思いだとわかった恋人を抱きしめて何が悪い?」 はぁ?今なんて言った? 両思い?恋人ぉ? ぴきりと固まった俺は、思考がショートしている。 希は何を言ってるんだ? あぁ、これは夢か。ついに現実逃避で夢で優しくされてるのか。 『恋人』 何て素敵な響きなんだろう…このまま現実に戻らなくてもいいや… ぱしんと頬に軽い衝撃が走った。 ふえっ?痛い… 「何勝手にトリップしてんだよ。 あーっ、もう。完全に誤解してる。そう思わせた俺にも責任があるんだが。 上がれ。こっちに来い。」 靴を脱ぐ間も惜しむように引き寄せられ、部屋の中へ引き摺られた。 一体何が…意味がわからない。 俺は完全にパニクっていた。

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