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第64話
希が慌てて俺の肩を揺さぶってくる。
「斗真?斗真?何言ってるんだ?
俺の目を見ろ!
嘘じゃないっ!ああっ、畜生っ。
俺が…俺がお前をこんなにも…心が壊れるくらいに痛めつけてしまったのか?
ごめん、斗真。違うんだ。」
そっと両手で頬を覆い、親指で伝う涙を拭き取られた。
再会してからされたことのない、その優しい仕草に心が揺れる。
俺は、その手をやんわりと外すと
「希…もう、いいから。
頼むから、俺を惨めにさせないでくれ。
本当に…結婚おめでとう。」
俺は最後にちゃんと笑って言えたかな。
立ち上がろうとした瞬間、身体がふわりと傾いて希に組み敷かれていた。
「違うって言ってるのに。何でわかってくれないんだ?
斗真…お前を愛してるんだよ。」
真剣な希の顔と切羽詰まった声。
「愛しているんだ。」
「だって…結婚するって…」
「だから、それも違うんだって。向こうが勝手に噂を流して画策しただけのことなんだ。
今までも何度も言い寄られてその都度断ってきた。
今回のは流石に俺も腹が据えかねて、CEOの許可を得てから、ボスと一緒に乗り込んで、取引停止を突き付けて、詐欺事件と人権損害で控訴するって宣告したら、二度としないから許してくれと詫びを入れてきたんだ。
女とは結婚しない。他の誰とも。
斗真、お前だけだ。」
希は手を引き俺を起き上がらせると、両手をぎゅっと握ってきた。
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