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第86話

マズい。傷付けた。 触れたい。キスしたい。抱き合いたい。 心も身体も繋がりたい。 わかってる。わかってるよ、希。 俺だってそうしたいんだ。 でも、こんな状態じゃ物理的に無理なんだって。 そんな泣きながら悲しそうな顔で出て行って、俺を一人にするなよ。 あぁ、もう。 泣きたいのは俺の方だって。 痛む身体を騙し騙し、ゆっくりと時間をかけて足を下ろす。 ううっ…痛ぇ。マジ痛ぇ。 壁に寄りかかりながら立ち上がると、生まれたての子鹿みたいな足取りで希を追い掛けた。 キッチンに立つ希の背中が泣いているように見えた。 お前が嫌いで拒絶した訳じゃないんだ。 わかってくれよ。 ゆっくりと背後から近付いて抱きしめる。 「希…」 「うわあっ!斗真?…びっくりした…何で?腰は?」 両手を希の腰に回してぴったりとくっ付いたまま 「うん、痛いけど…ヨロヨロしながらここまで来たよ。 …さっき言い過ぎたし。お前を傷付けた。ごめん。 俺だってお前に触れたいし抱き合いたい。 でも身体が言うこと聞いてくれないんだって。」 両手に少し力を入れてぎゅうっと抱きしめる。 俺の気持ち、伝わるかな?気持ちが溢れ過ぎて上手く言葉が出てこない。 希は震える俺の両手にそっと手を重ねて摩ってくれた。 「うん、斗真。わかってるよ。無茶してごめん。」 希はやんわりと俺の手を腰から外し、ゆっくり半回転すると向き合って俺の腰を優しく支え、遠慮がちに抱きしめてきた。 あぁ…痛くしないように気を付けてくれてる… 密着して触れ合った部分からじんわりと体温が伝わってきて、希の匂いに包まれていく。

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