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第2話「居場所」

始業式も終わり、各教室に皆戻って来ていた。担任の秋風が教卓に立ち、ぐるりと生徒を見渡す。そして俺と目が合った瞬間、秋風が微笑んだ……ように見えた。それは一瞬のことで俺の見間違いかもしれない。次の瞬間には秋風は俺から視線を外し、生徒名簿に目を通していた。 「今日から担任になる秋風だ。三年生は受験で大変になるとは思うがしっかりサポートしていきたいと思っている。何かあったら相談に来てくれて構わないよ」  向けられた笑顔は、柔らかく優しいものだった。これは確かに女子が騒ぐのも無理ないなと納得せざるを得ない。俺はなんだか気に入らず、窓の外を眺める。三年生の教室は校舎の三階にある為、空がより近くに感じる。窓が開いている為、風に乗って桜の花弁が一枚ひらひらと教室内に迷い込んできた。何となくそれを目で追う。桜は昔から好きだ。何故かと問われると俺自身もよく覚えていない。小さい頃は、家族でよく花見に行っていた。だからだろうか。そんなことを考えているといつの間にかHRは終わっていた。  この日は授業がなく、午前中で下校となった。部活動をしている奴らは放課後部活に勤しんでいるが、俺は帰宅部だ。さっさと学校を後にした。 家に帰る気にもなれなくて、街中をブラブラする。本屋に行ってみたり、ゲーセンでシューティングゲームをしてみたりして時間を潰す。特に仲の良い友達がいるわけでもなく、どちらかと言えば一人で行動する方が好きだ。だから、こうして一人で時間を潰すのは苦にはならない。むしろ、家に帰る方が精神的に堪えた。  俺の両親は仲が悪く、いつ離婚してもおかしくなかった。いつからだろう、段々両親の口数が減り、家の中が息苦しいと感じたのは。いつの間にか俺は家に寄り付かなくなった。両親もそれに対して何か言って来ることはない。もう、見捨てられているのだろう。そう考えると、心の中が空虚になるのを感じた。  日も沈み、辺りも暗くなり始めた頃、俺はファミレスで夕飯を取ることにした。毎日通っているテニーズには既に顔を覚えられていて、アルバイトの大学生に気さくに声を掛けられるほどだ。 「今日もハンバーグ?」 「毎日ハンバーグばっか食えるかよ、ステーキだ」 「肉は肉じゃね-か」 そんなやり取りを二、三往復して、大学生は厨房に引っ込んだ。ドリンクバーを取りに席を立ち、ジンジャーエールを注いで席に着いた。チビチビと飲んでいると、ジュージューと食欲をそそる音と共にステーキセットが運ばれてきた。 「お待たせしました。ステーキセットです。以上でご注文はお揃いですか?」 「へい」 「ごゆっくりどうぞ」  マニュアル通りの会話を済ませ、大学生は忙しそうに他の客の対応を始めた。それを横目に俺は、今日の夕飯を開始するのだった。

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