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第3話「進路相談」

 数日後、廊下を歩いていると急に秋風に呼び止められた。何事かと思って、用事を聞くと、どうやら先日渡された進路についてのプリントを提出していないのが俺だけらしく、早く提出しろとのことだった。面倒臭くなり、適当に返事をしてどうにかその場をやり過ごそうとしたが、そうは問屋が卸さないらしく、秋風に生徒指導室にそのまま連行されてしまう。  湿っぽい部屋は、普段使われていない為少し埃っぽさも混じっていた。教室の電気を付けてドアを閉めると、完全に俺と秋風だけになる。席に座るように促され、俺はドカリと椅子に腰かけた。 「蝦夷森……お前は正直に言って内申点も良くないし授業態度も良くない。就職するにしろ、進学するにしろお前のその態度は自分の首を絞めることになっているのは気付いているよな」 「……別に、なんとなく、どっかに就職できればいいかなって思ってるんで」  秋風は一つ大きな溜息を漏らした。どうせ、他の先生と一緒で説教が始まるに決まっている――そう思っていた俺に飛んできたのは、頬への軽い痛みだった。驚いて秋風を見やる。そこには真剣な顔つきの秋風が真っすぐ俺を捉えていた。 「もっと真剣に自分と向き合えよ。今逃げたらずっと逃げ癖が着くことになる。一生だ」 「っ……!」 “一生”その言葉の重みに、ドキリとする。だが、今更頑張ったところで何が変わる? どうせ、頑張ったって俺に出来ることなんて限られている。塾にも通っていないし今悪あがきしたところで成績が急に伸びるとも思わない。 「向き合った結果がこれだよ。俺はダメな奴なんだよ」 「お前はもっと……!」  ハッとした顔をして、秋風が口を噤んだ。何だろうと秋風を見つめていると、咳払いをしてから開口した。 「とにかく、お前は自分を過小評価し過ぎだ。もっと自分を褒めてやれ」  プリントは今週が期限だ、と言い渡され秋風は急く様に教室を後にした。残された俺は、机の上のプリントを見つめ、どうしたものかと考えた。頬に残る微かな痛みを少し、嬉しく感じながら。

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