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第4話「痛み」
その日の夜、久しぶりに早めに家に帰った。(早めと言ってもサラリーマンが残業して家に帰ってくるくらいの時間帯だが…)両親は、まだ起きていてリビングでテレビを見ていた。勿論、そこに会話らしい会話はない。俺は声をかけることなく自室へ戻り、鞄から進路相談についてのプリントを取り出した。無造作に鞄に入れていた為、少しシワが出来ている。それを伸ばしながら、机に向かった。
さて、どうしたものか。今週までと言われればとりあえず出さなければいけない。俺の今の学力じゃ到底進学は無理(そして両親が進学について何というか解ったもんじゃない)だから、やはり就職になるだろう。
『もっと真剣に自分と向き合えよ。今逃げたらずっと逃げ癖が着くことになる。一生だ』
秋風のあの言葉が脳裏をよぎる。俺は、それでいいのだろうか。本当に……? 考えれば考えるほど、頭には靄が掛かり上手く答えが出せない。諦めて、机から立ち上がったところで下の階から激しい物音が聞こえてきた。それは、陶器が割れたようなガシャンという大きな音だった。俺はげんなりして一階へと下りる。
父親が激怒する声と、母親のすすり泣く声が居間から聞こえてきた。こんなこと日常茶飯事になってしまった。昔は、父親の怒鳴る声が怖くて、でも母親を助けたくてよく庇っていたが、最後には父親は母親に優しくなった。DV男の典型的なそれに、今はもう何も言う気になれなかった。涙を流す母親と一瞬目が合ったが、それを無視して俺は家を後にした。こんな家なんかに居たくない。
繁華街に出ると、ネオンの光が眩しくて少し顔を顰めた。サラリーマンのおやじや、大学生くらいの集団、女子会後のような集団など様々な人たちが闊歩している。俺は特に行く当てもなく、街中をぶらついた。家に帰って着替えて来て良かったなと思う。制服のままだったら確実に補導されていただろう。
カラオケや居酒屋のキャッチを交わしつつ、どこに行こうかと思案する。先程の家でのやり取りを見ていたのもあり、静かな場所へ行きたいと思った。そういえば、と思い当たり路地裏へと向かう。少ししたところにあまり使われていない公園があるのを思い出したからだ。
案の定、公園には人はいなかった。適当にブランコに腰かけてゆらゆらと揺れる。暫くそうしていると、数人の足音が聞こえた。
「あれー? ここいつも俺らが使ってるんだけどー?」
見るからに不良と呼ばれるであろう恰好の男たちがこちらに近づいてきて、ニヤニヤと笑っている。まるで今日の獲物を捕まえた、と言わんばかりだ。まずい、と思った時にはもう腹に激痛が走っていた。
「誰に許可とって使ってんだよー? んー?」
「っかはっ……う……」
殴る蹴るの容赦ない暴行が続く。どうにか身を丸くして守ろうとするが、人数ですでに負けているんだ。こちらにどうすることも出来ない。俺はただただ、痛みがなくなるのを無心で待った。
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