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第7話「補習」
昼食を終えた俺は、秋風に進路について相談することにした。書き殴ったプリントを手渡して反応を伺う。暫くプリントを見つめた秋風は、俺へと視線を変え真剣な顔つきになった。
「もう、進学するって選択肢はお前の中にはないのか?」
「ない。まだ、やりたいこととか分かんないけどこれから探していこうと思う。それに」
一呼吸置いてから、俺は秋風に俺の家庭環境を話した。両親が不仲なことや、大学費用は見込めないこと。だったら自分で働いてさっさと家を出たいこと。とにかく、今自分が思っていることを正直に全部ぶちまけてみた。
思っていたよりも、話した方がスッキリしている自分に気が付く。あぁ、俺は誰かに話を聞いてほしかったんだな、と思った。
「今まで大変だったな、よく話してくれたな……」
そう言って、秋風は俺の頭を撫でる。なんだか懐かしい感じがして嫌な気はしない。
「蝦夷森が何を考えているのかは分かったよ。後は、就職に向けて一緒に準備していこうな」
「うん……」
*****
それからは特に大きな出来事もなく、気が付けば夏休み目前となっていた。数日後に来る夏休みにクラスメイト達は皆そわそわしている様子だ。しかし、そんな俺に告げられた一言は、俺を奈落の底へと突き落とすものだった。
「補習!?」
「お前がクラスの中でビリッケツだぞ。そんなんじゃ就職できない」
俺の夏休み、まだ始まってすらいないのに終わっちゃった……。
夏休みが始まり、地獄の補修月間もスタートした。俺一人の為に秋風が授業してくれるのは有り難いが正直眠いし、よく解らない。黒板に板書する秋風に見られないようこっそり欠伸をするも、すぐに注意されてしまう。お前の目は背中にもあるのか。
「蝦夷森、やる気あるのか? お前の為にやってるんだぞ?」
はぁ、と深い溜息を吐いて秋風がチョークを置いた。そうして、教室から出ていこうとする。まずい、秋風を怒らせてしまった。俺の為にわざわざ時間を割いてくれたのに。焦って、俺は秋風の肩をグイっと掴む。
「なん――……」
「……っ!」
何故、そうしたのかはわからない。焦りで思考が回っていなかった。気付いた時には俺は秋風にキスしていた。
「あ……ちがっ……」
「蝦夷森……?」
「っ秋風が帰ろうとするから! 俺は…っ」
居た堪れなくなって、俺は鞄に荷物を放り込みその場を離れた。見捨てられそうになった焦りと、秋風の怒った表情に動揺してとんでもないことをやらかしてしまった。その後の補習は淡々と受けた。無駄話をせず、きちんと秋風の話を聞いた。秋風も追及してくることは無く、俺たちはただただ同じ時間を過ごしたのだった。
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