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第7話
夏休みの初日、勢いに負けて約束したが一体どこで何時になのか、さっぱり分からない。そもそも連絡先さえ知らない相手にどうやって連絡するんだと、朝から落ち着かない。
何で、俺は落ち着かないんだ?この気持ちの中にある変なむずむずの理由がさらに分からない。朝早くに目が覚めてしまった。落ち着かないのは、きっと変な時間に起きてしまった所為だろう
二時間経った、とは言ってもまだ朝の八時。きっとあいつはまだ部活のはずだし……そうだ部活だ。わざわざ学校まであいつに会いに行くのか?けれど約束したのは事実だ。
他に方法が無いのなら行動した方がいいという結論に落ち着いて家を出た。
体育館の中からボールが床で反発する音、そしてバスケットシューズが床と摩擦してキュキュッと立てる音が外まで響いて来る。そっと体育館の外から様子をうかがう。そういえば、あいつが練習しているところを一度も見たことがなかった。
そこにいたのはいつものへらへらとした溝内ではなかった。荻野との力の差を見せつけてやれるのにと言っていたのは、冗談ではなかったのだ。
ディフェンスを軽々とかいくぐり、ボールをきっちりと運ぶ。ふわりと飛ぶように軽くジャンプした。踏み込みが浅いと思っていたのに、高く上がった溝内の身体が軽くしなって指先から綺麗な放物線を描いてボールがフープへと吸い込まれていく。
スコアした後、右手を高く天に突きあげた。汗が光って見える、熱い体育館の中さらに熱を帯びた体から珠の様な汗が肌を転がるように落ちていく。
多分、一番見てはいけないものを見てしまった。
そっとその場を離れようとしたときに、体育館の中から声をかけられた。二年の新部長が足早に駆け寄ってくる。その動きを追った溝内の視線と視線が絡まった。
「おはようございます!」
「いや、違う……学校に忘れ物して、その体育館からボールの音が聞こえて……」
何を自分が言い訳しているのかわからない。下級生に「おはようございます」と言われただけだ、何をしに来たのですかとは誰からも問われていない。
「練習の邪魔したな。悪りぃ、俺、帰るわ」
視線を一度もそらさずこちらを見ていた溝内が、コートの中から声をかけてきた。
「先輩、せっかくいらっしゃったんですから、少しだけ指導してもらえませんか?」
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