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朝、起きてから視界に入る白い髪にうんざりするのも、もう慣れた。自分の髪が白く、目が赤い。それが普通ではないと知ったのはいつだったろう。自分が周りと違うと言うより、周りと違う自分を自覚できていなかった。
水や窓に映る僕は、時折部屋にくる人間とは違い、肌も白いし髪も白い。
「おはよう。よく眠れたかしら」
ぼんやりしていたら、傍 から声が聞こえた。
「…おはよう」
そうだった、僕は昨夜、眞洋に助けてもらったのだった。同じベッドで寝るしかなかったのは、仕方がない。
この寝室は下の店と繋がっていて、昨夜は時間も遅く、僕を担いで眞洋が家に戻るには少し距離がある、らしい。だから、ここに泊まって、翌日に眞洋の家にいく。そう言った話にまとまったのだ。
そして、怪我が治る間、僕は眞洋の家に住むことになった。
「さて、今日と明日はお店もお休みだし、とりあえず何か食べましょうか。好きな食べ物はある?」
「……食べて見たいものはある」
「あら、何かしら」
仮眠を取るためだけにある二階の寝室からおり、昨夜と同じカウンター席に降ろされた。
モサモサだった髪をかきあげ、後ろにまとめながら眞洋が笑う。
「――…サンドイッチ…とか」
「サンドイッチ、食べた事ないの?」
「見たことはある。本とか…僕は和食以外食べたことがない」
「そう、まぁ…そうね、昨夜の話を聞く限り、普通の生活はしてないみたいだもの」
眞洋は少し待っててねと言い残し、左奥にあるのれんをくぐっていった。
僕はしばらく、昨夜のように店の内装を見回す。僕が今座っているカウンターの右手に店の出入り口がある。今は看板も中にあった。
出入り口のすぐ左に置かれた看板は、電気が付いてないからか、少しだけ寂れて見えた。
目の前の棚は三段ほど。丁度席に座ってまっすぐ向けた目線の位置に一段目がある。
酒のラベルには難しい漢字や、英語。見たことの無い言語もある。
控えめにいって、店内は狭い。カウンター席しかない。6席ほど。これで店として成り立っているあたり、謎だ。
「はい、おまたせ」
のれんをくぐり、眞洋が戻ってくる。僕の隣に座り、目の前に三角に切られたサンドイッチを置いた。
真っ白な皿に、二種類のサンドイッチが盛られている。
「シンプルに、卵とハム、それからレタスね。こっちはチーズとベーコンに、トマト。口に合えばいいけど食べれなかったらいって頂戴ね」
「いただきます…」
隣に座る眞洋はじっと見つめてくる。
僕は初めてのサンドイッチに少しだけ感動していて、口に運んだ時のシャキッとしたレタスの食感にも感動した。
初めて食べた、レタス。こんな味だったんだ。知らないことばかりだ。
「おいしかった。ごちそうさま」
「どういたしまして。よかったわ、口に合ったみたいで」
「……眞洋は、料理がうまいな。本当に美味しかった。ありがとう」
「くすなは素直ないい子ね」
ぽん、と頭を撫でて、眞洋が笑った。
眞洋はよく笑う。笑った顔も綺麗だし、普通にしていても綺麗だ。でも、店の外に出るとはあのもっさりに戻る。
曰く、楽だから、と。
「…綺麗なのに、勿体無い」
「? 急にどうしたの?」
「眞洋は勿体無い。綺麗だし、いい声なのに髪型と口調で損してる、気がする。わざとなのか?」
「―――昨夜も、聞いてきたわね。でも楽だからよ。口調は仕方ないわ。癖ですもの。損していても、私のこれは素なのよ」
同じように笑う、けれど。
どこか悲しそうに見えたのは、気のせいじゃないだろう。
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